アルバム紹介「FAB FOX」フジファブリック 後編
アルバム紹介「FAB FOX」フジファブリック 後編
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前回の続き、7曲目からまた書き記す。
7.ベースボールは終わらない
非常に明るい始まり方をするこの曲。
キーボードとビブラートがかかったギター音が、のどかな休日を連想させる。
これは曲の内容を知っているからなのかはわからないが、理屈が分からず不思議に思う。
ボーカルギターの志村正彦さん(以下志村さん)が、ミュージシャンを志す前は野球少年だったことも、この曲ができた経緯としてあるのかもしれない。
この曲と後のクロニクルに収録の「Sugar!!」があるため、野球好きの人の知名度もあったような印象を受ける。
「あいつに当てよう」って多分ボールを当てるってことを指しているのだろうが、いたずらっ子な一面が顔を覗かせている。
8.雨のマーチ
「ベースボールは終わらない」とは一点、火曜サスペンスのようなザワザワっとする曲調がくる。
傘を差している様子を「傘が咲いた」と比喩表現したり、「ぽつり」や「ほろり」といった擬音が多用されていたりと、言葉選びが面白いと感じる一曲。
雨の滴る音と、涙が滴り落ちる音がかけ合わさってるのだろうか。
よく聴くとこの曲は失恋の曲なのかな。そうだとしたらさりげない。
自分の読解力の無さではこれまで違う曲に聞こえてたが、知った時から時が経って聴くとそんな気がしてきた。
9.水飴と綿飴
アコースティックギターの演奏が印象的な一曲。
この曲はリードギターで、現在はギターボーカルを務めている山内総一郎さん作曲。
上記記事によると、自分が作った曲じゃないのなら新鮮な歌詞を載せようと「love you」というワードを入れたとか。それじゃあしっくり来ず、「嘘だよ」と入れたらフジファブリックらしさが出たと。
「嘘だよ」ってボカすところが味。甘酸っぱい情景が浮かぶ。
10.虹
5枚目のシングル曲である一曲。
「虹」というタイトルが付いた曲はこの世に数多くあれど、
自分の中ではフジファブリックのこの曲か、福山雅治さんの曲の2択である。
前奏の盛り上がりから、雨が上がって視界が晴れていく情景が浮かぶ。
雨に限定しなくても良いかもしれない。
心の中がモヤモヤ、暗いときにでも、この曲を聴くと明るく照らし、拓けた世界を創り出すきっかけになるかも。
そんな力を秘めている。
また、別に暗い気持ちに限定なくても良い。
ノリノリな時に聞けば、より前に進む気持ちにさせてくれる。
聴く人の心境・状況によって印象が変わる素敵な曲である。
曲の冒頭では「グライダー乗って飛んでみたい」と言っているが、
その後「グライダーなんてよして 夢はサンダーバードで」と曲中でより大きなものにすり替わっているのが何とも微笑ましい。
虹が架かっているという表現はよくみるが、「虹が曲がっている」って表現をする感性がとても好き。考えもしなかったなー確かに曲がっているけど、それを敢えて言うっていう。
この曲のMVの表現方法もユニークなため、是非見てみてほしい。
11.Birthday
(参照:フジファブリック 『FAB FOX』インタビュー | Special | Billboard JAPAN https://www.billboard-japan.com/special/detail/212)
上記インタビューで志村さんが述べているが、アルバムとして楽しいのはこの曲とのこと。
アコースティックギターのコード弾きから始まり、終始ノリノリな雰囲気。
1番のサビが「みんなが待っている」から「急いで帰ろう」で
2番のサビが「明日が待っている」から「ゆっくり帰ろう」である。
特別な夜に主役である自分自身を待つ人々の元に「急いで帰る」が
特別な夜を堪能するという意味で「ゆっくり帰る」ということだろうか。
こんな比喩表現どうやったら思いつくのだろう。
12.茜色の夕日
この曲がなかったらフジファブリックは世に出ていなかったかもしれない。
志村さんが地元、山梨県富士吉田市から上京した18歳の時に作っている。
プロのミュージシャンを目指して、アルバイトしつつ合間を縫って曲作りの日々。
その葛藤の日々の中、音楽をあきらめて地元に帰ろうかと悩んでいた志村さんが、そのことを当時バイト先の先輩だった氣志團の綾小路翔さんに打ち明けたところ、
「だったらこの曲(茜色の夕日)をくれないか」
と本気で頼まれ、実家に帰るのを考え直した という逸話がある。
昔自分はこの曲に心酔しすぎて、この曲は「志村さん」か「翔さん」か「民生(奥田民生)さん」が歌っているものしか聴きたくないと本気で思っており、大学生の頃に所属していた軽音サークルや関連サークルにて度々カバーされるこの曲を聴くことを良しとしなかったくらいである。
また自分自身、何度かフジファブリックのコピーバンド演奏をしたことがあるが、この曲は選べなかった。
何を大げさなと捉えられてもしょうがない話ではあるが、大本気である。
時が経ち、今は菅田将暉さんを始め、フジファブリックに愛のある方のカバーも好きだし、自分自身カラオケで入れて歌えるようになった。
そんなこの曲、おそらく今ブログを書いているこの瞬間も、バンドにとって一番大切な曲は「茜色の夕日」だろう。
山内さんがギターボーカルとなり、バンドが再始動した後に、志村さん時代の曲も色々とライブで披露されているが、この曲だけは10周年の日本武道館でしか演奏されておらず、しかも志村さんの声(CD音源)にメンバーが演奏するという形だった。
この曲を聴いていつも実感するのは
ボーカルの上手さ≠感動する わけでもないのだなということ。
歌唱テクニックを駆使して歌い上げれば感動させられるというわけではなく、心の奥底に訴えかける熱いものがなければ響かない。
きっと志村さんの歌唱力はプロミュージシャンの中で見れば特別上手い部類ではなかったが、人々に訴えかける表現力があった。
この曲の歌詞としては、他の曲でも見られる「時間の経過」により大きくなった自分から見た「昔」が表されており、曲中での「子ども→大人」「夕焼け→夜」「隣にいる君→一人」「情熱→虚しさ」といった変化で感じることができる。
最後のサビに入る前に歌われている、
「僕じゃきっとできないな」「本音を言うこともできないな」「無責任でいい」「そんなことを思ってしまった」という恐らく過去の後悔。その後悔に対して「思ってしまった しまった しまった」という叫びにも聞こえる何かに毎度胸が締め付けられる。
フジファブリックといえば今や「若者のすべて」が特出されるが、同じくこの「茜色の夕日」も、万人に刺さる名曲なのは間違いない。
志村さんの命日が近いこの時期は、地元富士吉田市では防災チャイムがこの曲になっている。
(またあの街に行って、富士山見ながらビールを飲みたい。)
切なさの中に一筋の希望が見えるこの曲が、一人でも多くの人の耳に届くと良いなと切に願う。
忘れることはできないな。
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